「AIに任せれば稼げる」という案内から高額なサポート契約を結んだが、収益化の手続きだけが進まないまま連絡が取れなくなった。相手方の社名は口頭で聞いただけで、契約書も受け取っていない。当事務所には、こうしたご相談が増えています。

結論から申し上げると、相手方の名称が分からないという理由だけで、ご相談ができなくなるわけではありません。また、実際に作業を教わっていたことも、ご自身に落ち度があったことを意味しません。

この記事では、AIを掲げた副業詐欺の手口、被害に気づいたときにまず行うこと、相手方の会社名が分からない場合の考え方を整理します。あわせて、当事務所が実際にお受けしたご相談の例もご紹介します。

※本記事に掲載するご相談事例は、ご本人および相手方が特定されないよう、時期・金額を抽象化し、内容を再構成しています。

1. AI副業詐欺とは|「AIに任せれば稼げる」という型

生成AIが広く使われるようになって以降、「AIが作業を代行するので、専門知識がなくても稼げる」という形の勧誘が増えています。動画制作、ライティング、画像生成、物販の出品作業など、掲げられる作業はさまざまです。

従来の副業詐欺との違いは、「なぜ自分にもできるのか」の説明にAIが使われる点にあります。経験がないことが、参加できない理由にならなくなります。

入口に並ぶ表示の型

  • 日給や月収の金額が、具体的な数字で示されている
  • 「初期費用0円」「スマホ1台で完結」と書かれている
  • 「専門知識や経験は一切不要」「AIが作業をサポート」とされている
  • 「1日5分」「最短即日で収益発生」と、作業量の少なさが強調されている
  • 「募集人数に限りがあり、残りわずか」と、枠の少なさが示されている
  • 立場の異なる複数の利用者の体験談が並んでいる

これらは単独で見れば、通常の広告にも見られる表現です。問題になるのは、これらが組み合わされたうえで、電話や面談に進んだ後に初めて高額な費用が提示される流れです。

SNSやメッセージアプリを入口にする流れ

SNSの広告やメッセージアプリのアカウントを入口にする点も、近年のご相談に共通しています。

  • SNSの広告や検索結果から、メッセージアプリのアカウントへ誘導される
  • アンケートで年齢・職業・現在の収入・増やしたい金額を回答させられる
  • 「無料レクチャー」「仕事の説明」として電話の予約に進む
  • 電話で初めて高額なプランが提示される
  • 契約後は、別のサポート担当のアカウントに引き継がれる

アンケートに回答した時点で、相手方は年齢・収入・希望額・お悩みまで把握したことになります。その後の電話で何をどう説明すれば響くかが、相手方には分かっている状態です。

「初期費用0円」と案内されながら発生する費用

入口の表示が「初期費用0円」であっても、契約後に費用が発生することがあります。

高額なサポート契約そのものに加えて、作業に使う各AIツールの有料プランへのアップグレードを求められる場合があります。こちらはご自身の名義で契約するため、支払った金額として意識に残りにくいという特徴があります。

入口の表示と、実際に発生した費用が食い違っている点は、勧誘の内容を検討するうえで材料になります。ツールへの課金についても、金額と支払いの記録が残っていれば整理の対象になりますので、あわせてご確認ください。

2. ご相談事例|AI動画制作のサポート契約

ここからは、当事務所が実際にお受けしたご相談を、手口の流れを理解していただくための例としてご紹介します。

ご相談者 20代・男性・会社員

手口 メッセージアプリの副業窓口から勧誘。AI動画制作のサポート契約を締結

支払い 150万円ほど。定価の一部を支払う形での契約

書面 契約書・解約書の交付はいずれもなし。社名は口頭で名乗られたのみ経過 作業指導は行われたが、収益化の手続きだけが進まないまま連絡が途絶える

「1日5分の作業で最短即日」という表示

ご相談者は会社にお勤めになりながら副業を探しておられました。最初に登録されたのは、副業を案内するメッセージアプリのアカウントです。そこには収入までの流れが4つのステップで示されていたとのことです。

  • マニュアルを受け取る
  • マニュアルに沿ってスマホで操作する
  • 時間をかけず作業を効率化。重要な作業はAIに任せる
  • 1日5分からの作業で、最短即日で収益発生

あわせて、「スマホ1台で完結」「初期費用0円スタート」「専門知識や経験は一切不要」「AIが作業をサポート」というメリットが並び、「募集人数に限りがあり、残りわずか」と表示されていました。続いて、立場の異なる複数の利用者の体験談が示されています。

口頭でのみ名乗られた社名

その後、実在する国内企業の社名を名乗る担当者から「簡単な作業で副業ができる」と勧誘を受けておられます。

ここが本件の分かれ目でした。その社名は口頭で名乗られただけで、メッセージなどの記録には残っていません。契約にあたっても、契約書や利用規約といった書面は交付されていませんでした。

ご契約になったのは、数百万円の収益が見込めると表示されたプランです。定価の一部を支払う形で、150万円ほどをお支払いになっています。

1週間以上にわたって続いた作業指導

本件で特徴的なのは、契約後に実際の作業指導が行われている点です。サポート担当とメッセージアプリでやり取りをしながら、AIを使ったショート動画の制作を教わっておられます。

内容は具体的でした。対話型AIで絵コンテを作り、画像生成AIで一貫性を保ちながら画像を作り、動画生成AIで動きをつけ、編集アプリでつないで投稿する。解説動画も送られています。

指導は1週間以上にわたって続き、ご相談者は実際に動画を制作して投稿するところまで進まれました。何もしないまま放置されたわけではありません。

一方で、作業を進めるなかで、各AIツールの有料プランへのアップグレードが必要だと案内されています。入口の表示は「初期費用0円スタート」でした。本当に必要かを尋ねたところ、必要である、安いプランで構わないという趣旨の回答があったとのことです。

作業中に届いた「有効性審査」というSMS

作業期間中、ご相談者のもとに、登録している携帯番号の確認手続きを求めるSMSが届いています。手続きをしなければ機能が制限される、という趣旨の内容でした。

サポート担当はこの手続きを進めるよう促しており、手続きの後には、認証が完了したので一定期間はログアウトしないように、という趣旨の案内が届いています。

この種のSMSは、アカウントの乗っ取りを目的とするものである場合があります。身に覚えのない「有効性審査」「認証手続き」を求める連絡が届いた際は、リンクを開く前にご確認ください。

収益化の手続きだけが進まないまま途絶えた連絡

動画の制作が進んだ段階で、ご相談者は収益化の時期について尋ねておられます。相手方からは、近く手続きを進めるという趣旨の回答がありました。

しかし、その手続きは進まず、進捗を確認するやり取りが2週間ほど繰り返され、やがて相手方からの返信が途絶えています。

連絡が途絶えた後は、相手方の側から応答を求める連絡が届くようになりました。お金を支払い、作業もして、収益化だけを待たされた側に対して、相手方が催促をする。立場が逆転した状態です。

なお、相手方のアカウントの一つには、「このアカウントは未認証アカウントです。投資など金銭に関連するメッセージには十分注意してください」という警告が表示されていたことも確認しています。

ご相談をいただいたのは、勧誘を受けてから2か月ほど経った時点でした。

3. 副業詐欺にあった場合にまず行う4つのこと

被害に気づいた直後にしていただきたいことは、多くありません。下記の4点です。

行うこと理由
1追加の支払いを止める「あと少しで収益が出る」という説明で被害が拡大しやすいためです
2やり取りと画面を削除しない後から復元できないことが多く、失われると主張の幅が狭まります
3支払いの記録を集める支払った総額が、あらゆる手続きの出発点になります
4相手方に会社情報を確認する商号・所在地・代表者名の開示を求め、回答を記録に残します

1:追加の支払いを止めること

「あと少し作業を進めれば収益化できる」「上位のプランに変更すれば解決する」「手続きに費用が必要」といった説明を受けることがあります。お支払いになる前に、必ずご確認ください。

また、被害に遭われた方に対して、SNSや掲示板から「返金の手続きを代行する」と持ちかけられることがあります。手数料や保証金を求められる場合は、二次被害の可能性があります。

2:やり取りと画面を削除しないこと

本件のご相談者は、勧誘を受けた当時のやり取りをすでに削除されていました。気まずさや腹立たしさから消してしまわれる方は少なくありません。

しかし、いったん削除されたやり取りは、後から復元できないことが多くあります。見たくないというお気持ちは自然なものですが、アプリごと削除したり、アカウントをブロックして履歴を消したりする前に、一度ご相談ください。

3:支払いの記録を集めること

銀行の入出金明細、クレジットカードの利用明細、電子マネーの送付履歴など、実際にお金が動いたことが分かるものを集めてください。

AIツールへの課金など、ご自身の名義で支払った分も含めてご確認ください。副業のために発生した費用であれば、整理の対象になります。

4:相手方に会社情報を確認すること

商号、所在地、代表者名、電話番号。この4点の開示を求め、やり取りを記録に残してください。

開示されれば、その内容を確認する手がかりになります。開示を拒まれた場合も、拒まれたというやり取り自体が記録になります。どちらに転んでも意味がありますので、連絡が取れるうちに確認しておくことをおすすめします。

4. 相手方の会社名が分からない場合

「相手が誰なのか分からないのだから、弁護士に相談しても意味がないのでは」。そうお考えになって、ご連絡をためらわれる方は少なくありません。

たしかに、相手方の情報が乏しい事案は、そうでない事案に比べて進め方が限られます。当事務所でも、情報が足りない段階では、できることとできないことを率直にお伝えしています。

一方で、ご本人が「何も残っていない」とお考えの場合でも、お話を伺うなかで手がかりが見つかることがあります。何が残っているか分からないという状態のままで、ご相談いただけます。

口頭で名乗られた社名しか残っていない場合

電話で社名を名乗られただけで、メッセージや書面には残っていないという状況です。本件もこの型でした。

この場合、その社名が正しいものであるとは限りません。口頭で名乗ることには何の裏づけもないためです。まずは、その社名の法人が実在するかを国税庁の法人番号公表サイトで確認するところから始まります。

実在する企業の名前が使われている場合

名乗られた社名が実在する企業のものであっても、その企業が関与しているとは限りません。無関係な企業の名前を無断で使う、いわゆるなりすましの手口があります。

実在する企業の名前が使われていた場合は、その企業自身が注意喚起を出していることがあります。企業の公式サイトに、同様の被害についての告知がないかご確認ください。

5. 相手方は逮捕されるのかという問い

「相手を逮捕してほしい」というお気持ちは、当然のものです。一方で、刑事の手続きと、支払ったお金を取り戻す手続きは別のものだという点は、あらかじめご理解いただく必要があります。

刑事手続きと民事手続きの違い

刑事手続き民事手続き
目的犯罪として処罰すること支払ったお金を取り戻すこと
進める人警察・検察(国)被害に遭われた方(代理人を立てられます)
結果起訴・有罪判決など返金の合意、判決による支払い命令など
お金有罪になっても、それだけでは戻りません回収できれば手元に戻ります

人をだましてお金を交付させる行為は、刑法上の詐欺罪に当たり得ます。ただし、刑事事件として捜査するかどうかを判断するのは警察や検察であり、被害に遭われた方が処罰を決められるわけではありません。

逮捕されても返金されるわけではないこと

仮に相手方が逮捕され、有罪となった場合でも、それによって自動的にお金が戻るわけではありません。返金を受けるには、別に民事の手続きが必要になります。

一方で、警察への相談に意味がないわけではありません。振込先の口座について凍結の措置が取られるきっかけになることがあり、その場合には口座に残っている残高からの分配につながることがあります。民事の手続きとあわせて検討する価値があります。

なお、金融機関への連絡は、弁護士が代理人として行うこともできます。警察に出向くことに抵抗がある、何から話せばよいか分からないという場合は、ご相談いただければ当事務所から金融機関へ連絡いたします。

6. 作業を教わっていても相談できる理由

本件のように、契約後に実際の作業指導が行われていた場合、「きちんと教えてもらったのだから、続けられなかった自分が悪いのでは」とお感じになる方がいらっしゃいます。

しかし、判断されるのは作業指導の有無だけではありません。示された収益の見込みと実際の内容が一致しているのか、収益が生まれる仕組みが実際にあったのかが問われます。

本件では、「1日5分からの作業で最短即日で収益発生」「日給5万円以上の収益が見込める」と表示されながら、収益化の手続きだけが2週間ほど引き延ばされ、そのまま連絡が途絶えています。作業を教える部分だけが実体を伴い、肝心の収益が生まれる部分には到達しない構造でした。

指導が丁寧であったことは、かえって「実体がある」と信じさせる働きをします。教わったこと自体を、ご自身の落ち度とお考えになる必要はありません。

同じように、契約書を受け取っていないこと、相手方の名称を控えていなかったことも、ご自身の落ち度として扱われるべきものではありません。書面を交付しないという相手方の進め方そのものが、検討の材料になります。

よくある質問

Q. AI副業の勧誘は、すべて詐欺なのでしょうか。

A. AIを使った仕事の案内がすべて問題だというわけではありません。問題になるのは、「AIに任せれば誰でも稼げる」として高額な費用を支払わせ、説明された収益が生まれない構造である場合です。

Q. 相手方の会社名が分かりません。それでも相談できますか。

A. ご相談いただけます。相手方の情報が乏しい事案は進め方が限られますが、ご本人が「何も残っていない」とお考えの場合でも、お話を伺うなかで手がかりが見つかることがあります。

Q. 口頭で名乗られた社名があります。その会社に連絡すべきでしょうか。

A. その社名が正しいものとは限りません。無関係な企業の名前を無断で使う手口があるためです。まずは、その法人が実在するかを国税庁の法人番号公表サイトで確認し、その企業が注意喚起を出していないかをご覧ください。

Q. 契約書をもらっていません。契約自体が無効になりますか。

A. 書面がないことがただちに無効を意味するわけではありません。一方で、取引の内容によっては、事業者に書面を交付する義務があり、交付がない場合はクーリング・オフの期間が進行しないと考えられています。どの枠組みで検討できるかは、勧誘の経緯によって変わります。

Q. 勧誘のやり取りを削除してしまいました。もう手遅れでしょうか。

A. 手遅れとは限りません。お手元に何が残っているかによって、進め方が変わります。ご相談の際に、当時の状況をお聞かせください。ご紹介した例のご相談者も、やり取りを削除されていました。

Q. 作業のやり方を1週間以上教わりました。それでも詐欺になりますか。

A. 作業指導の有無だけで判断されるものではありません。示された収益の見込みと実際の内容が一致しているのか、収益が生まれる仕組みが実際にあったのかが問われます。

Q. 「初期費用0円」と書いてあったのに、AIツールの課金が発生しました。

A. 入口の表示と実際に発生した費用が食い違っている点は、勧誘の内容を検討するうえで材料になります。ご自身の名義で支払われた課金も、金額と記録が残っていれば整理の対象です。

Q. 相手方は逮捕されますか。

A. 刑事事件として捜査するかどうかを判断するのは警察や検察です。また、仮に有罪となった場合でも、それによって自動的にお金が戻るわけではありません。返金を受けるには、別に民事の手続きが必要になります。

Q. 相手方から催促の連絡が届いています。返信すべきでしょうか。

A. ご自身で返信されたことをきっかけに、追加の支払いを求められたり、不利な内容に同意を求められたりすることがあります。ご返信になる前にご相談ください。

Q. 作業中に「有効性審査」というSMSが届きました。応じてよいものですか。

A. 身に覚えのない認証手続きを求める連絡は、アカウントの乗っ取りを目的とするものである場合があります。リンクを開く前にご確認ください。

Q. 勧誘から2か月ほど経っています。今からでも相談できますか。

A. ご相談いただけます。ただし、時間の経過は結果に影響しうる要素です。記録がお手元に残っているうちに、早めにご相談いただくことをおすすめします。

Q. 相談したら、必ず依頼しなければいけませんか。

A. そのようなことはありません。ご状況を整理してご説明したうえで、ご依頼されるかどうかはご判断いただきます。見込みが薄い場合は、その旨も率直にお伝えします。

まとめ

AIを掲げた副業の勧誘では、「経験がなくてもAIが代行する」という説明によって、できない理由が先に打ち消されます。そのうえで、電話や面談に進んだ後に高額な費用が提示される流れが共通しています。

被害に気づいたときにしていただきたいのは、4点です。追加の支払いを止めること、やり取りと画面を削除しないこと、支払いの記録を集めること、相手方に会社情報の開示を求めることです。

相手方の会社名が分からないという理由だけで、ご相談ができなくなるわけではありません。何が残っているか分からないという状態のままで、ご連絡いただけます。

また、作業を教わっていたことも、契約書を受け取っていなかったことも、ご自身の落ち度として扱われるべきものではありません。判断されるのは、示された収益の見込みと実際の内容が一致しているかどうかです。

AIを使った副業のために高額な費用を支払ったが収益化の話が進まない、相手方と連絡が取れなくなった、相手が誰なのか分からない。そうしたご状況でしたら、ぜひ一度ご相談ください。

お手元の資料がそろっていなくても構いません。分かる範囲の情報から、当事務所でご状況を整理してご説明します。ご相談いただいたからといって、ご依頼をお願いすることはありません。