「審査は通りました。ただ、融資の前に保証料をお振込みください」。資金繰りのために融資を申し込んだところ、こう言われて振り込んだが、融資は実行されない。当事務所には、事業を営んでおられる方からこうしたご相談が寄せられています。

結論から申し上げます。正規の貸金業者が、融資の実行前に保証金や手数料の名目で振込を求めることは通常ありません。融資に伴う費用は、実行される貸付金から差し引かれるのが一般的です。融資の前に金銭を求められた時点で、いったん手を止める理由になります。

この記事では、融資保証金詐欺の手口と、相手方が実在するかをご自身で確かめる方法を整理します。あわせて、当事務所が実際にお受けしたご相談の例もご紹介します。

※本記事に掲載するご相談事例は、ご本人および相手方が特定されないよう、時期・金額を抽象化し、内容を再構成しています。

1. 融資保証金詐欺とは|融資の前に金銭を求める手口

融資をめぐる融資詐欺のなかでも、融資保証金詐欺は警察庁が特殊詐欺の一類型として定義している手口です。融資を受けるための保証金の名目で、指定した口座に現金を振り込ませるものとされています。

警察庁の説明によれば、「無担保、低金利、保証人不要で融資可能」などと書かれたハガキやSMSが突然届き、大手企業のロゴが記載されているため軽い気持ちで電話をしてしまう、という流れが示されています。

そして、「返済の信用実績を作っておく必要があるので、先にお金を振り込んでください」と言われ、振り込んだ後もさまざまな名目でお金を要求される、とされています。

あわせて、地震や災害などの影響で経営に支障を来している会社を救済するように装って融資を持ちかけてくるものもある、という指摘もされています。

正規の貸金業者が融資前に金銭を求めない理由

融資に伴う費用があるとしても、実行される貸付金から差し引くことができます。わざわざ借り手に先払いをさせる必要がありません。

むしろ、これから貸そうとしている相手に対して、先に振込をさせるという手順自体が不自然です。この一点だけでも、立ち止まる理由になります。

名目として使われる言葉

先払いを求める理由として使われる言葉は、いくつかの型に分かれます。

  • 保証料、保証金(「保証会社をつけるため」という説明)
  • 更新手数料、事務手数料
  • 信用実績を作るための入金(「一度返済の実績を作る」という説明)
  • 信用調査料、与信審査料
  • 保険料(「貸倒れに備える保険」という説明)
  • 振込手数料、送金手数料

名目が変わっても、構造は同じです。融資が実行される前に、借り手から金銭を移動させています。

事業者宛てのFAXやダイレクトメールを入口にする型

個人向けの詐欺はSNSの広告や検索からの接触が大半ですが、事業者向けの場合は届き方が異なります。

事業用の電話番号宛てのFAX、事務所宛てのダイレクトメール、会社の代表番号への電話。受け取る側が事業者に限られるため、個人向けの手口とは異なる経路が使われます。

事業を営んでいれば、資金繰りの相談先は常に必要です。低い金利の案内が届けば、目を通す理由があります。警戒しているかどうかの問題ではありません。

融資以外でも同じ構造の手口があること

先に金銭を支払わせるという構造は、融資に限りません。

  • 助成金や補助金が受給できるとして、申請の手数料を先に求める
  • 資金調達の仲介を持ちかけ、着手金や紹介料を先に求める
  • 売掛債権の買取を持ちかけ、手数料や保証金を先に求める

いずれも、「これから入ってくるお金」を根拠に、先の支出を納得させる形になっています。入ってくる前に出ていくお金がある場合は、その時点でご確認ください。

2. ご相談事例|審査通過後に求められた「保証料」

ここからは、当事務所が実際にお受けしたご相談を、手口の流れを理解していただくための例としてご紹介します。

ご相談者 女性・事業主

手口 事務所宛てのFAXが入口。融資の実行前に「更新手数料」「保証料」を要求

被害額 450万円ほど。個人名義の複数の口座へ送金

融資の実行 なし経過 初回の送金から2週間ほどでご相談。相談時点で警察への相談・口座凍結はいずれも未実施

事務所に届いた1枚のFAX

ご相談者のもとに届いたのは、事業用の電話番号宛てのFAXでした。内容は、著しく低い金利で融資を受けられるという案内です。

事業を営んでいれば、資金繰りの相談先は常に必要です。低い金利の案内が届けば、目を通す理由があります。ご相談者は、この案内に応じて申し込みをされました。

この入口は、当事務所がお受けする事例のなかでも珍しいものです。SNSの広告や検索からの接触が大半を占めるなかで、本件は事業者の事務所に直接FAXが届いています。

審査通過後に求められた金銭

申し込みの後、審査が行われ、融資を受けられることになったと告げられます。ここまでは、通常の融資の手続きと変わりません。

ところがその後、融資の実行前に「更新手数料」と「保証料」の支払いを求められます。指定されたのは、個人名義の口座でした。

ご相談者はこれに応じ、複数回にわたって送金されています。合計は450万円ほどです。しかし、融資が実行されることはありませんでした。

なお、ご相談をいただいた時点で、ご本人が把握されていた金額と、明細から確認できた額には差がありました。送金の回数が重なると、総額を把握しきれなくなることがあります。

「全額返金します」という説明と届いた書面

融資が実行されないまま時間が過ぎたところで、相手方から次のような説明を受けています。

「解約手続きをとれば、期日までに全額返金します」

あわせて、「それまで待ってみるしかない」とも言われていました。

さらに相手方からは、契約解除の通知という表題の書面まで届いています。期日を示して返金を約束し、書面も送る。手続きが進んでいるように見せる一方で、実際にはその日まで動けない状態が作られています。

ご相談者は、相手方が告げた期日を待たずにご連絡をくださいました。この判断は適切であったと考えています。

後に確認できた相手方の実体

相手方は株式会社を名乗り、所在地も表示していました。しかし後に確認したところ、その商号と所在地で法人の登記を確認することはできませんでした。

相手方のWebサイトについても、作られて間もないものでした。

会社の登記が確認できない。サイトは作られたばかり。この2点が重なる状況でした。

3. 相手方が実在するかを自分で確かめる3つの方法

相手方が実在する事業者かどうかは、ご自身でもある程度は確認できます。いずれも無料で、誰でも利用できるものです。

確認できること確認先
1その商号と所在地で法人の登記があるか国税庁「法人番号公表サイト」
2貸金業の登録を受けている業者か金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
3Webサイトがいつ作られたものかドメインの登録情報

法人の登記の確認

国税庁の「法人番号公表サイト」では、商号や所在地から法人の情報を検索できます。案内に記載された社名と住所で検索し、該当する法人が出てくるかをご確認ください。

なお、法人が実在する場合でも、その法人の名前を無断で使われているだけということがあります。登記が確認できたとしても、その法人が本当に連絡してきているかは別の問題です。

貸金業の登録の確認

貸金業を営むには、登録が必要とされています。金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」では、業者名、代表者名、電話番号、所在地のいずれからでも登録の有無を検索できます。

登録がない業者が融資を持ちかけている場合、その一点で応じるべきではありません。案内が届いた段階で調べておくことをおすすめします。

あわせて、登録番号が記載されている場合は、その番号が実際にその業者のものかもご確認ください。他の業者の登録番号が流用されていることがあります。

Webサイトが作られた時期の確認

Webサイトのドメインがいつ登録されたものかは、公開されている情報として確認できます。

見た目が整っていても、作られたのが数週間前であれば、それは判断の材料になります。長く運営されているサイトであれば、それだけ実体を伴っている可能性が高まります。

ただし、これは材料の一つにすぎません。登録から年数が経っているサイトが安全であるとは限りませんので、ほかの事情とあわせてご覧ください。

法人の登記が確認できない、貸金業の登録がない、サイトが作られたばかりである。こうした点が重なる場合は、送金される前にご相談ください。

4. 「返金する」という約束を待つことの危うさ

すでに支払ってしまった後、相手方から「返金する」と告げられることがあります。期日を示され、書面まで届くこともあります。

期日を決めているのは相手方

期日と書面がそろっていると、「もう少し待ってみよう」という判断になりやすくなります。

しかし、その期日を決めているのは相手方です。当日になって新たな理由が示されることもあります。「手続きに不備があった」「もう少し時間がかかる」「先に別の費用が必要になった」といった説明です。

書面が届いていても手続きが進んでいるとは限らないこと

契約解除の通知といった表題の書面が届くと、手続きが適正に進んでいるように見えます。

もっとも、書面を作って送ることは誰にでもできます。書面が届いていることは、手続きが適正に進んでいることを意味しません。

ただし、その書面は保管しておいてください。正規の手続きを装う目的で送られたものであっても、相手方の主張や連絡先が記載されていることがあり、経緯を示す資料になります。

待っている間に資金は移動すること

送金先の口座から、資金は引き出されていきます。口座を凍結できたとしても、取り戻せるのはその時点で残っている資金に限られます。

口座の凍結は、警察への相談や、振込先の金融機関への連絡をきっかけに、金融機関が判断して行います。なお、金融機関への連絡は、弁護士が代理人として行うこともできます。警察に出向くことに抵抗がある、何から話せばよいか分からないという場合は、ご相談いただければ当事務所から金融機関へ連絡いたします。

返金の約束を待つことは、そのまま時間を失うことになりかねません。期日を待たずにご相談されることをおすすめします。

5. 事業者が被害に遭われた場合に押さえておくこと

資金繰りへの影響をあわせて整理すること

事業者の場合、被害そのものに加えて、資金繰りの予定が崩れるという問題が生じます。

融資を受けられる前提で組んでいた支払いが行えなくなる。保証金として支払った分だけ、手元の資金が減っている。この二重の影響が、その後の支払いに及びます。

ご相談の際には、返金を求める話とあわせて、資金繰りの状況もお聞かせください。どちらを急ぐべきかという優先順位が変わることがあります。

追加の支払いを止めること

「あと少しで融資が実行される」「解約すれば返金するので、先に解約手数料を」「別の保証会社をつければ通る」といった説明を受けることがあります。

お支払いになる前にご相談ください。融資が実行されていない段階で追加の支払いに応じることは、被害を広げる方向にしか働きません。

また、被害に遭われた後、別の業者から「被害の回復を代行する」と連絡が来ることがあります。手数料や保証金を求められる場合は、二次被害の可能性があります。

ご相談の前に手元にあるとよいもの

そろっていない項目があっても構いません。分かる範囲でお持ちいただければ、そこから整理します。

  • 届いたFAXやダイレクトメール、案内のパンフレット
  • 銀行の振込明細(送金した回数分すべて)と、振込先の口座情報
  • 相手方とのやり取り(メール、メッセージ、通話の記録)
  • 契約解除の通知など、相手方から届いた書面
  • 相手方のWebサイトのURL、表示されていた社名・住所・電話番号・登録番号

とくに、最初に届いたFAXやダイレクトメールは捨てられてしまいがちです。どのような案内から始まったのかを示す資料になりますので、残っていればご持参ください。

よくある質問

Q. 融資保証金詐欺とはどのようなものですか。

A. 融資を受けるための保証金の名目で、指定された口座に現金を振り込ませる手口です。警察庁が特殊詐欺の一類型として分類しています。振り込んだ後も、さまざまな名目でお金を要求されることが特徴です。

Q. 融資を受ける前に保証金を払うよう言われています。これは普通のことですか。

A. 正規の貸金業者が、融資の実行前に保証金や手数料の名目で振込を求めることは通常ありません。融資に伴う費用は、実行される貸付金から差し引かれるのが一般的です。お支払いになる前にご相談ください。

Q. 「返済の信用実績を作るために一度入金してほしい」と言われました。

A. これも先払いを求める説明の型の一つです。これから貸そうとしている相手に対して、先に振込をさせるという手順自体が不自然です。

Q. 相手の会社が実在するか、自分で確かめられますか。

A. 国税庁の「法人番号公表サイト」で商号と所在地から登記情報の有無を、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」で貸金業の登録の有無を確認できます。いずれも無料で利用できます。

Q. 登録番号が記載されていました。それなら大丈夫でしょうか。

A. その番号が実際にその業者のものかをご確認ください。他の業者の登録番号が流用されていることがあります。金融庁のサービスでは、業者名や電話番号からも検索できます。

Q. 「解約すれば全額返金する」と言われました。待っていればよいでしょうか。

A. 期日を決めているのは相手方です。当日になって新たな理由が示されることもあります。待っている間にも資金は移動しますので、その期日を待たずにご相談されることをおすすめします。

Q. 契約解除の通知書が届きました。これがあれば手続きは進んでいるのでしょうか。

A. 書面が届いていることは、手続きが適正に進んでいることを意味しません。正規の手続きを装う目的で送られる場合があります。ただし、経緯を示す資料にはなりますので、保管しておいてください。

Q. 相手方の会社が存在しないと分かりました。請求できないのでしょうか。

A. 存在しない法人に対して請求を行うことはできません。もっとも、そこで終わりということではありません。検討できる手段はご状況によって変わりますので、ご相談の際に個別にご説明します。

Q. まだ警察に相談していません。先に弁護士に相談してもよいですか。

A. ご相談いただけます。ご紹介した例も、警察へのご相談前の段階でのご連絡でした。口座の凍結を急ぐべき状況かどうかも含めて、いまとりうる手段を整理してご説明します。金融機関への連絡は弁護士が代理人として行うこともできますので、警察に出向くことに抵抗がある場合もご相談ください。

Q. 事業の資金繰りのための借入でした。個人の被害と違いはありますか。

A. ご相談の内容に違いはありません。ただし事業者の場合、資金繰りの予定が崩れることでその後の支払いに影響が出ます。返金を求める話とあわせて、資金繰りの状況もお聞かせください。

Q. FAXやダイレクトメールで届く融資の案内は、すべて怪しいのでしょうか。

A. 届いたというだけで判断することはできません。確認すべきは、貸金業の登録があるか、法人の登記が確認できるか、そして融資の前に金銭の支払いを求められていないかという点です。

Q. 助成金や補助金の申請代行でも同じことがありますか。

A. 先に金銭を支払わせるという構造は、融資に限りません。「これから入ってくるお金」を根拠に先の支出を納得させる形は共通しています。入ってくる前に出ていくお金がある場合は、その時点でご確認ください。

まとめ

融資詐欺のなかでも、融資保証金詐欺は、融資を受けるための保証金の名目で先に金銭を振り込ませる手口です。警察庁が特殊詐欺の一類型として分類しており、振り込んだ後もさまざまな名目で要求が続くことが特徴とされています。

名目は、保証料、更新手数料、信用実績を作るための入金、信用調査料、保険料などさまざまです。しかし構造は同じで、融資が実行される前に借り手から金銭を移動させています。

正規の貸金業者が、融資の実行前に保証金や手数料の名目で振込を求めることは通常ありません。融資に伴う費用は、実行される貸付金から差し引くことができるためです。融資の前に金銭を求められた時点で、いったん手を止める理由になります。

相手方が実在するかは、ご自身でも確認できます。国税庁の法人番号公表サイトで法人の登記を、金融庁の登録貸金業者情報検索サービスで貸金業の登録を、いずれも無料で調べられます。

すでに支払ってしまわれた場合、「返金する」という期日を待つことはおすすめできません。期日を決めているのは相手方であり、待っている間に資金は移動していきます。

融資を受ける前に保証金や手数料を求められている、払ったのに融資が実行されない、「返金する」と言われて待たされている。そうしたご状況でしたら、期日を待たずにご相談ください。

お手元の資料がそろっていなくても構いません。分かる範囲の情報から、当事務所でご状況を整理してご説明します。見込みが薄い場合は、その旨も率直にお伝えします。ご相談いただいたからといって、ご依頼をお願いすることはありません。